Friday, June 12, 2015

どうすればバイクは速く進むのか? Part2 効果的な投資編

前回はバイクのスピードを決める要素エフェクティブ フォースネガティブ フォースについて考えてみました。

今回は、この二つを改善する為の効果的な投資について考えてみます。




改善の順序としては、エフェクティブ フォースを増やすことが第一です。
クルマに例えるとレースの勝敗を決めるのは、エンジンの出力でありドライバーの技術です。
同じようにバイクのスピードを決めるのはライダーが生む推進力であり、操るテクニックです。

まずは絶対的なエフェクティブ フォースを増やすことが先決です。
ネガティブフォースを減らすことは、損失が減る為、結果的に速くはなりますがペダルに与えるパワーが増えるわけではありませんから、勝利を決定づけるファクターにはなりにくいのです。

エフェクティブ フォースを増やす方法
(1)トレーニング
エフェクティブ フォースを増やすためには、何をおいてもまずはトレーニングです。パワーメーターをお持ちであればMMPの更新(5秒、1分、5分、20分などのパワー)、なければトラックでタイムを測っても良いですし、登りでタイムを測っても良いでしょう。
これらを元にトレーニング戦略を立て、エフェクティブ フォースを増やして行きましょう。


(2)戦術・ライディング テクニック
レースや練習会に参加し、ライバルとの駆け引き、集団でのポジショニングについて研究することは、エフェクティブ フォースを増やしネガティブフォースを減らす取組みと言い換えることが出来ます。最初は特にスクールに参加するのをお勧めします。
トレーニングではとんでもない強さを発揮し、レースでもアタックを繰り返すのに勝てない選手をアメリカでは "ワット・ウェイスター(Watts waster…ワット数の浪費家)"と呼びます。限りあるパワーを有効に使う方法を学ばなければなりません。


(3)ポジション
シートやハンドル、クリートのポジションを細かく調整し、ペダリングの踏力・効率・環境の改善を図ることで出力は増えます。下記の3点にフォーカスし、かつ全体のバランスをとって行きます。

1.最もパワーが出るポジション
2.パワーが持続出来るポジション
3.リラックス出来るポジション(回復が速くなり結果的にパワーが増える。)

この作業はフィッティングを受けたり経験豊かな選手にポジションについて尋ねるのも大切です。 ”自身が一番良いと思っているポジション” と ”実際に一番速いポジション” は違うことの方が多いですし、独走とグループライドでもポジションは違います。
バランスが大切ですから、"独りよがりなポジション"にならないようにすることが大切です。

また自転車はクルマと違って生身の人間が操りますから最適なポジションは常に変化します。パワーアップすれば最適なポジションも変わっていくのが自然ですから定期的にチェックすることが必要です。


(4)チューニング
レース当日にエフェクティブ フォースを最大にする作業=エンジンの性能を引き出すチューニングを行います。トレーニング量を減らし疲労を抜き、栄養摂取に気を配りマッサージや整体などを受けてベストな万全な体調で挑めるように調整します。




ネガティブ フォースを減らす方法
こちらは主に機材投資になります。資金が有り余るならチームskyのように"マージナルゲイン"を狙って、科学の粋を集めた最速のパーツで固めれば良いですが、一般的なレーサーにとって機材にかけられる資金は限られています。ですから効果的な投資を順序立てて考える "投資戦略" もレーサーに必要な能力と言えます。


機材への投資を考える場合、一番簡単で確実な目安は「順位が変わるかどうか?」です。


50万円かけて100g軽いフレームを買うことが本当に順位を変えるのか?プロツアーの選手が使うのと同じ機材を買うことが実際に順位を上げる投資なのか?を判断しなければなりません。

プロの世界でも最高級のパーツを使うプロツアーチームに中級グレードのパーツを使うプロコンチの選手が勝つことはよくあることですから、パーツのグレードアップも順位が変わる投資かどうかを判断してから行うべきです。
(実際アメリカのプロコンチの選手は、かなりの選手がシマノ・アルテグラもしくはSRAM Forceを使用しています。)


私がお勧めする機材投資の順番
(1)ハンドル・サドル・シューズ・ウエアに投資…エフェクティブ フォースを増やす為。また快適なウエアは運動効率を上げる。


(2)ヘルメット・タイヤ…価格の割に空気抵抗の削減効果が大きいヘルメット、安全に関わるタイヤ。これらは比較的安価で費用対効果が大きい。


(3)セラミックベアリング・ホイール・フレーム…ネガティブフォースの削減に投資し"マージナルゲイン"を狙う。


上記以外に私はプロのバイクメンテを受けることを強くお勧めします。
最近のバイクは、一見3, 4, 5mmのアーレンキーがあれば組み上がってしまうように思いがちですが、事実は違います。

BBやRD、FDなどの各パーツは単に組み付けただけでは精度が出ていないことが殆どです。

「プロ」が組んだバイクは、パーツ単体ではなく自転車トータルとしての精度が上がっている為、驚くほど良く進みます。
アマチュアが組んだD/Aのバイクより、プロが組んだアルテグラの方が進むことはよくあります。


投資効果の測り方
投資効果は「タイム」と「レースの成績」で判断し(機材を購入した後でないと分からないところに難しさがありますが・・・)次なる投資戦略を考えて行くのが良いと思います。


また投資額に対するタイム短縮を計算し費用対効果をチェックするのも有効です。

タイム短縮の費用対効果計算
投資額 ÷ タイム短縮(秒)=費用対効果

計算例:
3万円のフィッティング ÷ 2秒短縮 = 1.5万円/秒 (1秒短縮に15,000円投資)

10万円のパーツ ÷ 2秒短縮 = 5.0万円/秒 (1秒短縮に50,000円投資)


ところで、これらの投資は、レース参戦費用を確保したうえで、更にスペアが購入出来る位に留めておくのが無難です。

「必勝を祈願してカーボンホイールに全財産投入!」

なんていう神頼み的な投資は、たいてい上手く行きませんし、もし落車で壊してしまったら資金不足に陥ってシーズン残りのレースが走れなくなります。

「なるべく安価に収めてあとは脚とテクニックでカバー」ぐらいの気持ちで投資計画を立てられた方が無理がなく、結果的に上手く行くと思います。


よりバイクを速く進める為の参考にして頂ければ幸いです。




中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了



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