Monday, May 25, 2015

シーズン前半のトレーニングについて Part2 ケーススタディ 社会人レーサー編

前回は春のトレーニングのフォーカスについてご紹介しましたが、今回は実際のケーススタディを見ながら実例をご紹介したいと思います。

宇都宮クリテでの西沢選手 撮影 高木秀彰


春のトレーニングフォーカス
(1)VO2Maxパワー/反復能力の向上
(2)ACパワー/反復能力の向上
(3)レースに応じた能力の向上
(4)戦術・ライディング技術の向上




これらのトレーニングフォーカスを個々の練習環境(トレーニング時間・交通事情・選手個々の能力)に合わせてデザインして行くのはコーチの仕事ですが、コーチが居ない場合は、選手は自分自身でレースまでの期間や仕上がり具合を見ながらトレーニングを計画して行きます。


PCGでコーチングさせて頂いているシエルボ奈良所属の西沢倭義(にしざわ いより)選手を例に見て行きましょう。
彼は冬~春のトレーニングを成功させJプロツアー開幕戦「第2回 宇都宮クリテリウム」を12位でフィニッシュ、チャレンジロードの最高峰A-Eクラスも完走し全日本選手権の出場権を獲得しています。


西沢選手は昨年大学を卒業し、まだ社会人2年目の選手です。
彼は学生時代に学生チャンピオンになったほどの選手でしたが、昨年は環境の変化や練習時間確保の難しさから、得意のクリテリウムでも予選落ちを喫するほど低迷してしまいました。

シーズン最終戦であったツール・ド・おきなわもリタイアに終わり沖縄の海を眺めながら「もう二度と同じようなシーズンは過ごしたくない。」と考えた彼は東京に戻ってすぐパワータップを導入し、PCGと契約します。

完全にパワートレーニング初心者だった彼が最初に行ったのは、FTPテストです。

2014/12/25 FTPテスト 20分 264w
264w x 0.97≒FTP256w ←ローラーでは実走よりもパワーは低くなる為、通常の0.95ではなく0.97を掛けます。

こちらをスタート地点として、東京の交通事情、仕事とのバランスを考慮し宇都宮クリテリウムに照準を合わせてトレーニングを行いました。

平日は仕事・東京の交通事情を考慮し、トレーニングは全てローラーです。


(1)VO2Max、(2)ACパワー/反復能力の向上
社会人レーサーにとって難しいのは言うまでもなくトレーニング&リカバー時間の確保です。

彼の場合も同様で平日トレーニングに割ける時間は多くの社会人レーサーと同じ30分から1.5時間(週5-13時間)。

プロ選手は通常毎日2-6時間(週13-25時間)トレーニングしますから、限られた時間でプロ選手に対抗しうるパワーをつける必要があります。

またトレーニングに割ける時間は限られていますから、春先プロ選手が行うような週ごとに少しずつ時間と強度を伸ばす方法を適用するには無理があります。
その為、与えられた時間の中で各パワーゾーン毎の強度の比率を変えて行くのが最も現実的で確実な方法になります(下図参照)。

プロとアマの強度比率イメージ


また時間の無い社会人レーサーにとって自転車に乗ってから「さて今日は何をしようかな?」と考える時間はありません。綿密にワークアウトの計画を立て、一度ローラー台に飛び乗ったら計画どおりにワークアウトを実行する必要があります。
幸いローラー台は天候・時間に左右される事なくトレーニングが出来ますから、計画的に毎週少しずつ負荷を増やして行けます。


実際のワークアウト
1/7
FTP 3 x 10min
VO2Max  3 x 2min
合計 1h24m, TSS 94









2/4
SST(88-94% of FTP) 1 x 20min
VO2Max 4 x 3min
合計 1h06m, TSS 93










2/28
SST w/ バースト 1 x 20min
クリスクロス 1 x 20min
1 x 10min マイクロバースト
合計 1h22min TSS 106









TSS・・・トレーニングの強度と時間を表わす数値。1時間の全力TT=100TSS


(3)レースに応じた能力の向上
クリテリウムは、(5-20秒のダッシュ)/レストの繰り返しで、さながら1時間続くインターバルトレーニングのようです。
激しくケイデンスは変化し、ダッシュ時のケイデンスは(90-105rpm)とかなり速くなります。

その為、一人でトレーニングを行う場合でも、このような(ダッシュ/レスト)の繰り返しをシュミレーションしておく必要があります。下記のトレーニングではクリテリウムの激しいパワーの変動を再現する為に各種のインターバルを行っています。



クリテリウムはダッシュの連続











2/28 SST w/ バースト(短いダッシュ) 、クリスクロス、マイクロバースト
・SST w/ バースト 
スイートスポット(88-94%FTP)での巡航中に2分に1回10秒のバーストを入れて20分

・クリスクロス
SSTで巡航中2分に1回30秒間FTPの120%までペースを上げる。
30秒が経過したら、もとのペースに戻す。(しかし85%以下に下げてはいけない!)  

・マイクロバースト
30秒ON-30秒OFFの繰り返しを10分間!
ON・・・ 150%FTP
OFF ・・・50%FTP


トレーニング時もダッシュの連続を再現


(4)戦術・ライディング技術の向上
レースの戦術を磨くのはレースに出るのが最高ですが、彼の場合2月・3月は休日出勤が多く、週末に仲間とグループライドを行うことさえ難しい状況でした。
その為、今回はローラー台の上でもペダリング技術を磨けるワークアウトを多く入れました。

彼はトラック出身の選手であり、ハンドリングスキルについて心配は要りませんでした。しかしペダリングについてはグループライドが出来ない為、脚に集団走行でのペダリングを思い出させる必要がありました。

彼のSST(88-94% of FTP) w/バーストのパワーファイルを見てみましょう。

SST w/ バーストは、SSTの中にダッシュを繰り返し入れる事で、ダッシュ直後にSSTの強度で足を回復させる=何とか足を貯める能力 を磨く事が出来ます。

パワーデータを見ると1本目はバーストのパワー、レストのパワーともに安定していません。これはSSTの間に上手く足を貯めるペダリングが出来ていない為、回復が間に合わず次のスプリントに準備が出来ていないからです。

しかし2本目はパーフェクトに軌道修正しているのが見て取れます。バーストは回を追うごとに力強くなり、SSTのパワーは高い位置で安定しています。これはSSTの出力の中で、足を回復させるペダリングを掴んだ為、スプリントに備えて高い出力の中でも足を貯めることが出来ているからです。

この方法は成功し、レースでも上手くプロ選手と調和して走ることが出来ました。もちろんローラーで全ての実走テクニックを磨く事は不可能ですが、ペダリングに関してはローラーでのトレーニングであってもライディング技術の向上を図れる一例と言えるでしょう





上記の4点に主眼を置きながらトレーニングを行い2月上旬には20分289w(≒FTP274w +18w, +7%)までパワーアップ、そしてシーズン初戦となった宇都宮クリテリウムでは、12位の成績を収める事が出来ました。

ちなみにレースの週は色々な事情が重なりトレーニング出来たのは、たったの2回。
その内1回は1時間、そしてもう1回は8分(!!)でした。

それでも、好走できたのは彼の才能とモチベーション、そして綿密なトレーニング計画と実行力にあったと言ってよいでしょう。


もちろん簡単なことではないものの、計画を練り、レースに要求される能力に焦点を絞ったトレーニングを遂行すれば、社会人の限られた練習時間でも国内最高峰のクラスでレース活動を行うことは可能だということを彼の走りは示しているといえるでしょう。




12位でフィニッシュ 撮影 高木秀彰

彼のトレーニングを支えるパワータップ


中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了
















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